+Want your lips+               -side Heero-





画面を見つめながらキーボードに手を掛けキーを叩く。

その一連の動作を休む間もなく繰り返す。

少し喉の渇きを覚えて、片手を伸ばして側に置いてあるカップを手に取った。

もう温くなってしまったコーヒーを一口飲んだ。

程好い苦さが口腔内を潤し、少し頭がはっきりした。

カップをもう一度置き直したとき、不意に誰かの視線を感じた。










ここはプリベンターの本部で、今は内勤で前の任務の報告書を作成中だ。

暫くは外に出ることもなく、この決して広くはない部屋でキーを打つ日々だ。

誰かが周りで会話している声が聞こえてくることもある。

そんな比較的静かで平和なこの空間で……さっきから視線を感じる。

それは…決して嫌な部類の物ではなくて、寧ろ心地よいくらいの視線。

相手は見なくても誰かなんて分かっている。

いつもは視線を向ける前に話しかけてくる相手。

珍しく今日はそのよく動く口から言葉が発せられる事はなく、ただじっと一点を見つめている。

どこだ?どこを見ている?

俺は画面を見つめたまま意識を集中させる。

見られているのは多分顔のどこかだろう、流石に特定することは出来ないが。

俺は相手の顔を見つめ返したい衝動に駆られるが、ぐっと堪えて画面を見続ける。

彼はプリベンター内に留まらず、どこに行っても注目を浴びる。

誰にでもよく話し、よく笑う。

そんな彼を人は知らない間に好きになってしまっている。

彼は人を惹きつけて離さないものを持っているから。

自分にはないものを沢山持っている……。

そんな彼が今自分だけを見つめている。

その澄んだ青が自分だけを映している。

その事実が俺の心を躍らせる。

彼の視線を独占している優越感。

それを失いたくなくて俺は画面を見続ける。

いつだって自分の側に置いておきたい存在。

毎日キスして、抱き締めて、彼が自分の側にいるのを確認する。

いつでも接触するのは自分からで、彼からは一度もない。

それが堪らなく不安になる時もあるが、彼はいつでも笑って許してくれる。

ただ、一度でいいから彼からのキスが欲しい……と思うのは俺の我が儘だろうか。

彼の事は信じているが、一度でいいからしてほしいと思う。

そんなどう仕様もない思考が頭を占領し始めたとき、不意に同僚が彼に声を掛けた。

「デュオ、さっきからフリーズしてるけど大丈夫か?」

「あ、ああ。大丈夫。」

思わずその声に反応して顔を上げてしまった。

しまった、と思ったときにはもう遅く、彼は視線を逸らした後だった。

慌ててキーを叩いてるが、動揺しているのかエラー音が鳴り響いてる。

もしかしたら俺が気づいてたことがバレたか?

上手く隠していたとは思うが……。

「悪い、ちょっと休憩してくる。」

彼のそんな声が聞こえてもう一度顔を上げると、部屋を出て行ってしまった後だった。

俺は漸くキーを打つ手を止めた。

出て行ったドアを見つめて暫し考え、彼の後を追って部屋を出た。















行き先は多分屋上だ。

俺は迷うことなく上を目指して足早に歩く。

今追いかけたらきっと分かってしまうだろう。

だが、そんなことは今問題ではなかった。

屋上の扉を開けて中に入ると、彼がフェンスに体重をかけて空を眺めていた。

俺はその姿を見て思わず声を掛けるのを躊躇うが、なるべく邪魔をしないように近づいて行った。










側まで近寄ると彼が声を掛けてきた。

「お前も休憩か?」

「ああ。」

とそれだけ応えて隣りに並んだ。

相変わらず彼は黙ったままで空を見ている。

時折何か言いたそうに口を開きかけるがやはり会話はない。

その微かに動きそうになる唇をみていたら不意にキスしたくなった。

「デュオ。」

名前を呼び彼がそれに振り向くと同時にキスをした。

たったそれだけの行為なのに、ひどく照れる彼。

その表情を見てまたキスをした。

今度は少し長めの軽く触れるだけのキス。

「いつも突然だよな。」

「したいと思ったからするだけだ。」

お前はそうじゃないのか?と後に続けそうになって言葉を飲み込んだ。

俺のその言葉に何か考え込んでいるように見えた彼の表情が明るくなったのが分かる。

どうした?と聞こうとした言葉は彼の独り言によって遮られた。

「なんだ、そうだったのか。」

「?」

何のことだ?また疑問が浮かぶ。

そんな事はお構い無しにいきなりネクタイを引かれキスをされた。

先程の願いが相手に届いたかのようなタイミングの良さに思わず相手を見た。

「オレもお前とキスしたかったんだよ、ヒイロ。」

お相子だろ、そう言って照れるデュオをとても愛しく感じる。

自分でも顔の筋肉が緩むのを感じるがもうどう仕様もない。

「そろそろ戻ろうぜ!」

「そうだな。」

ドアに向かって歩き出すデュオの後ろでは三つ網が弾んでいる。

デュオは自分もキスしたかった…と言った。

デュオももしかしたらしたいと思っていたのか?

自分と同じ気持ちでいてくれたのだろうか?

そう考えると嬉しくなる。

穏やかな日差しのように自分の心も暖かくなった。











あとがき
ヒイロヴァージョン……何だかなぁ〜(笑)
ヒイロさん、デュオより性格捏造されてるよ、どうしよう(-_-;)
結局家のヒイロさんはデュオラブなんだな〜ってことでいいですか?←誰に聞いてる!
まぁキーを打つ時間は惜しいんだけど、デュオに割く時間は沢山あると(笑)

甘い話にしたかったんですけど、ちゃんとなってるかな〜。
もう自分ではよくわからんとです(^-^;)


2006.07.22   葵